65歳までの定年延長を提言

1026日 一般企業向けに講演 

1026日に、県社労士会川崎北支部主催の一般企業向け講演会において、「高年齢者雇用の課題と対策」と題し、100余名の聴講者を得て講演させていただきました。幸い同じ社労士仲間には好評でした。

 

 

国が進めている働き方改革の動きの中で、正規・非正規労働者の格差解消に向け、同一労働同一賃金に関するガイドラインが示されています。また、無期転換ルールがいよいよ来年4月には本格的に運用されますが、これらはいずれも高年齢者雇用にも関連します。展示するシート作成に当たっては、各企業に持ち帰り検討していただけるようできるだけ多くのデータを提供することを心がけました。

構成は次の通りです。


まず、少子高齢化が進む中、企業活動を維持するためには高齢者を含む現有戦力の活用が第一の課題であろうこと。高齢者雇用努力が非正規労働者比率を高めている実態。働きたいが働けないでいる高年齢者がまだまだ多いことなどを紹介し、同時に老後資金の確保に向けた自助努力を促すためのライフプラン研修等に注力されたい旨数字を示して話しました。

次に国の働き方改革実行計画工程表に示された高齢者雇用の促進策を紹介しました。工程表では、2020年までを65歳超雇用の推進と65歳までの定年延長に向けての集中支援期間と位置付けていること。再雇用者の賃金設定の考え方など、高年齢者雇用アドバイザーとして学び考えたことなどを開陳しました。

 

更に、来年3月までに、継続雇用(再雇用)採用の企業には無期転換ルールの特例を得るための認定申請と、高齢者を含めた全年齢層有期契約者を対象として無期転換申込に備えた事前の定年規定を含む「無期転換従業員の就業に関する規程」の新設への取組みの必要性を強調しました。労働組合のある企業においては、無期転換従業員の労働組合への加入の可能性を含め、転換の在り方如何では労組と協議すべき事項も生じるため対応を急ぐ必要があろう旨も述べました。規程案も展示させていただきました(終了時間が押していることもあり、多少急ぎ足であったが)。

 

そして、昨年12月に示された同一労働同一賃金に向けてのガイドライン案からいくつかポイントを説明した後で、65歳までの定年延長を提言しました。

 

自分自身の経験からすれば、60歳は第2の人生を開拓するギリギリの年齢であり、また老親の介護などに対処するための適切な時期でもありました。なによりも、そこを目標として勤めてきたのに、ゴールが急に後ろへずれる疲労感は相当ではないか、などと考えていました。また、今回調べていくと、行政でも、かねてより60歳までは定年延長、その後は再雇用、との考えであったとのことです。最近それが65歳までの定年延長に向けた取組みを、と変わってきました。

 

定年延長を提言する理由と提言内容 

それらを踏まえた上で、次のいくつかの点を考え、定年延長を提言することとした次第です。

 

  日本人の長寿化は今後も進むとされています。話題の著『LIFE SHIFT』では2007年生まれの日本人の50%107歳以上生きるとのこと。これまでの教育期、仕事期、引退期の3ステージでは対処できずマルチステージの時代が来るとしています。ただ、長寿化の中で仕事期は何回かに分かれるとしても、国の経済や自らの家計を支えるには、今より仕事をする期間は確実に長くなります。年齢層ごとに選択肢をいくつも用意していく必要があるでしょう。

 

  正規・非正規の格差解消は、現時点では、あくまでも同一企業内の格差問題の解消に焦点が当てられています。とすれば、高齢期(当面は65歳まで)にも非正規とされる再雇用者と比較対象となるべき正規労働者の存在が必要であろうと考えています。

昨年5月の東京地裁における長澤運輸事件では、再雇用者の職務内容、人材活用の仕組み及び賃金等労働条件と比較されたのは同社の60歳未満の正規労働者のそれでした。改正高年法への対応だとする会社の主張は退けられ、直接に私法的効果をもつ労働契約法第20条がその根拠となりました。同年代の正規・非正規較差をどう捉えるかの視点が大切と考えます。

 

  今年作成された『65歳超雇用推進マニュアル』(当日配布)に、参考データとして定年延長を採用した企業の例がいくつか示されていますが、再雇用者の賃金が定年前を大きく下回ると同様、大手企業の多くの例で、延長後の賃金水準は59歳時点のそれの67割程度に減額しています。戦力化を考え、高齢者のモチベーションを考えるとこの低減幅の大きさは気になりますが、定年延長後の賃金の引下げは、かつての役職定年制などと、いまも検討されている成果主義型賃金などと同列のもので、定年延長により、同じく正社員内の人事・賃金政策の問題と捉えることができるといえます。

 

  再雇用制度採用企業の大半が、再雇用者の役割、職能、成果に見合った賃金(賃金の3要素)を設定、評価を行うことをせず、機械的に賃金を下げ、昇給等も行わないといったいわば「福祉的雇用」の実態にあり、「戦力化」の視点が欠けています。高齢者の活用・戦力化のため、正規労働者として賃金の3要素を反映した処遇が求められるべきと考えます。

 

  昨年10月、「65歳超雇用推進助成金継続雇用促進コース」による定年延長企業に対する助成金が新設されました。その5月改訂後の制度では雇用保険被保険者数で10人以上の企業が60歳定年を65歳定年にしたときの助成金額は120万円。中小企業には魅力です。一瞬の間に光り輝き目標がクリアされればあっという間に消える「彗星助成金」だという社労士もいますが、確かに4月末までの申請件数は目論見を大幅に上回ったということです。

 

・・などが理由です。また、論考を進める中で、

 

  上述しましたように、本年328日に決定された「働き方改革実行計画・工程表」において、2020年度までを65歳以降の継続雇用延長・65歳までの定年引上げ促進の集中支援期間と位置付けていることを知ったこと。

 

 

  さらに公表された工程表を踏まえてか、公務員の65歳への定年延長も検討の俎上に載せる話も聞こえてきましたが、これらも定年延長を提言しようという判断の補強材料となりました。

発表シートは全44シートで発表時間は1時間40分。ストーリーから外した「閑話休題」的な話題を「補遺」として、別に12頁にまとめ配布してもらいました。

 

定年延長提案のシートを下に示します。選択定年制として、60歳以降の退職・解雇は懲戒解雇を除き「定年扱い退職」とするとしました。退職金を早期に得たい人、パートタイム労働を希望する人は、一旦退職して、再雇用契約に切り替えるとの提案です。

今から40数年前の入社当時実施されていた60歳への定年延長の制度をイメージしつつまとめました。

 

以上