自転車通勤と事故への備え

 

最近、健康経営、エコ、震災経験などの観点から自転車利用への関心が増加しているとのことです。

 

この6月の労務診断部会(県社労士会専門部会の一つである自主学習会)でY氏がこの自転車通勤における規則制定の必要性を示す資料を発表された。良く纏められていましたので、氏の了解を得てその報告のストーリーに沿い紹介します。ご参考に願います。

 

自転車事故の多発と保険加入

 自転車保険については、2015年度の主要4社の新規契約は前年度比約2.4倍の47万件程度に増えたとのことです。ここ数年、事故で多額の賠償金を求められる事例が相次いでおり、裁判で高額の賠償額が判決として示されていますが、現実の支払い実態は厳しく、そのために保険加入を求める自治体が増えていることも背景にあるということのようです。昨年10月には兵庫県で保険加入を義務付ける条例が施行されています。それによれば、事業者も事業活動で自転車を利用させる場合、保険加入は義務とされています。 

 

神奈川県内の<自転車事故>についていえば、2015年交通事故全発生件数28313件の内、6,166件(21.8%)を占めています。死者22人(全死者数の12.4%)、負傷者6,067人(全負傷者数の18.0%)です。事故の形態としては、人対車両220件、車両相互5,904件(多い順に「出会い頭」、「右折時」、「左折時」、「正面衝突」・・・)。また、事故発生件数は3月が最も多かったとのことです。 

 

※自転車の加害事故で<高額の賠償>が認められた事例(損保協会HPより掲載)

 

○神戸地裁平成25年7月4日判決(賠償額9,521万円)

 

男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において反対方向から歩行中の女性(62歳)と正面衝突、女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。

 

○東京地裁平成20年6月5日判決(賠償額9,266万円)

 

男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突、男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。

 

○東京地裁平成15年9月30日判決(賠償額6,779万円)

 

男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂でスピードを落とさず走行し交差点に進入、横断歩道を横断中の女性(38歳)と衝突、女性は脳挫傷等で3日後に死亡した。

 

○東京地裁平成19年4月11日判決(賠償額5,438万円)

 

男性が昼間、信号表示を無視して高速度で交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中の女性(55歳)と衝突、女性は頭蓋内損傷等で11日後に死亡。

 

○東京地裁平成17年9月14日判決(賠償額4,043万円)

 

男子高校生が朝、赤信号で交差点の横断歩道を走行中、旋盤工(62歳)の男性が運転するオートバイと衝突、旋盤工は頭蓋内損傷で13日後に死亡した。 

 

自転車と道路交通法

 自転車は道路交通法上「軽車両」に含まれ(道路交通法2条1項11号)、「軽車両」は「車両」に含まれる(同法2条1項8号)とされています。したがって、自転車も原則として四輪車と同様に「車両」としての交通方法に従うこととなります。

 

これにより、通行については、原則として車道を、左側を通行しなければなりません。また、交差点における左方優先・優先道路側優先・広路優先・安全な速度と方法で通行する義務、指定場所での一時停止義務、夜間灯火の義務、酒気帯び運転の禁止等々四輪者と同様の多くの規制があります。 

 

他方で四輪車と異なる軽車両・自転車特有の規制があります。車両通行帯の設けられていない道路では、道路の左側端に寄って通行しなければならないこと、また、原則的には左路側帯を通行できます。例外的に、①道路標識等により自転車がその歩道を通行できるとされているとき、②運転者が、児童・幼児、その他政令で定める者(70歳以上の者、他)、③安全確保のため歩道通行がやむをえないと認められるときなどでは、歩道を通行できる場合がありますが、自転車が歩道を通行することができる場合でも、車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の通行の妨げとなるときは、一時停止しなければなりません。歩道を若者がスピードを上げて自転車を走らせ、ヒヤッとさせられることがありますが、これは不法行為ということになります。 

 

事故の多発実態から、昨年6月1日に改正道路交通法が施行されました。14の危険行為を定め、14歳以上で3年間に2回以上危険行為で摘発された自転車運転者には安全講習の受講を義務づけられました(受講しないと5万円以上の罰金が科せられる)。 

 

*①信号無視、②通行禁止違反、③歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反)、④通行区分違反、⑤路側帯通行時の歩行者の通行妨害、⑥遮断踏切立入り、⑦交差点優先車妨害、⑧交差点安全進行義務違反等、⑨環状交差点安全進行義務違反等、⑩指定場所一時不停止等、⑪歩道通行時の進行方法違反、⑫制動装置(ブレーキ)不良自動車運転、⑬酒酔い運転、⑭安全運転義務違反(例:携帯電話使用や傘をさしながらの運転等) 

自転車通勤許可について

 公共交通機関を利用しての通勤だとして手当を受給し、実際は自転車を使っているケースでは厳密には詐欺罪に該当します。実態があれば、その旨を徹底する一方で、通勤手当を支払い、許可制を採用することが現実的でしょう。通勤手当は本来、「実費支弁」の考えによるとして、多くの企業では自転車通勤は認めるものの手当支給は「なし」というのが実態でしょう。しかし、地方公共団体などではエコ通勤ということで、手当を支給し奨励しているところもあります。金額の設定は困難ですが、職場での懇親会予定、風雨の強い日などは代替公共交通機関の利用などもありうることなどを考慮して決定されるのではないでしょうか。ただ、あまりに遠距離の自転車利用は事故の危険性から好ましくはありません。 

 

また、許可に当たっては、規程を設け、安全運転教育の受講(自転車運転に伴うリスクの認識と道路交通法の知識習得・確認)や、自転車保険への加入の徹底を図るべきでしょう。

 

先日、某大手電機会社の関連会社を訪問した折、この件を話題としました。丁度、親会社では制度化を検討されているとのことで、その保険加入について、対人1億円を義務付けるようだとの話でした。 

※先年、小職は某社の求めで自宅から会社までの自転車通勤取扱い規程を作成しました。全員に周知したところ、「実は、自宅から最寄り駅まで、バス通勤として届けているが、駅前の渋滞であまりに時間を要するため実は自転車で通勤していました。」との申告があり、自宅から最寄り駅までの自転車通勤についても支給対象にし、駅周辺の自転車保管所の料金相当額を支給する旨の規定を追加したことがあります。 

 

(参考)名古屋市市職員通勤手当 

距離区分

自転車利用

自動車利用

2km以上5km未満

4,000

1,000

5㎞以上10km未満

8,200

4,100

  以上