自転車通勤のリスクと対策(その2)

 

自転車通勤を禁止とするか許可制を取り厳格なルールを定めるか、従業員の加害事故への対応、通勤手当、その他施設整備など対応すべき点はいくつかあります。

労務診断部会として協議し結論を出したわけではありませんが、大凡の見解は、禁止するのではなく許可制とし、その基準等ルールを厳格に示すことを選択しようということでした。

 

 その理由は上表の通りです。自転車通勤を禁じ、労災の手続きはしないとする企業もあるとのことですが、抑々労災かどうかは会社が決められるものではありません。

 発表会テキスト掲載の論考(1月初に印刷に回したもの:略)にモデル規程を付しましたが、某社で現に活用されている規程です。自宅から最寄り駅までをバス通勤だとして登録した者が、「実は・・・」と自転車利用を申し出たため、駐輪場利用料金の支払いにつき規定に追加しました。

 
 

自転車ではなく、自動車による加害事故で会社の負うべき責任には①使用者責任(民法)と②運行供用者責任(自賠責法)があります。基本的には業務上の事故に責任を負うのですが、外形標準説により、社有車を私用、通勤用に貸与・無断利用の場合も①②の責任を問われかねません。②の場合、盗難車両による事故でも責任を問われるケースもあるとされています。

 通常は自転車通勤途上の事故で会社が責任を問われることはないだろうが、公私混同がある場合や、加害従業員から「過労のため注意力散漫でつい・・」などの言い訳が使われるとすれば、会社の責任が問われかねません。

()「運行供用者責任」は自賠責法に規定され自動車のみに適用されるものです。ただ、昨年5月の東京地裁長澤運輸事件ではパートではない原告の主張認容の論拠にパートタイム労働法が引用されております。将来被害者救済の論拠に自賠責法の引用もあり得る、と多少強引な論をここでは展開しております。 

 

 本件に関連して、発表リハーサルの会合で、実務経験豊富な先輩から、通勤利用を禁止していたにも拘らず自転車通勤中に加害事故を起こした者があり、会社に法的責任はないものの弁護士を伴って被害者に押しかけられ、困ったケースが過去あったとの事例紹介がありました。被害者は妊娠3か月。万一胎児に支障があればどうするか、と迫られたというものです。無事出産されたということで社長とともに安堵した由。

上表のような対策が考えられます。慰謝に関する部分はともかく、損害部分に関し金銭的な対応ができているならば、その他の労度・精神的負担は相当程度軽減すると考えます。

 

 県内K市職員の通勤手当は、交通用具の別なく距離によるが同額設定とのことでした。

 名古屋市の場合、エコ通勤奨励策として平成13年に自動車より多額の手当を自転車に設定しています。いずれにせよ手当なしでは、雨の日、アルコールの伴う会合の日などのバス利用を考慮すれば、通勤に自転車を利用しながら、バス通勤を登録して定期代を受納するといった者はなくならないでしょう。なお、名古屋市では片道15km以上の手当額が定められています。事故の危険性、疲労等を考慮すれば、利用距離の上限を設けるべきと考えます。また下限は事業所立地により(手当額支給下限は2km以上としても)安全配慮等から緩めてもよいのではないでしょうか。

 


 ところで、自転車保険加入を義務付ける場合、わかりやすくかつ廉価なものを紹介したいものです。

  幸い横浜には「ハマの自転車保険」が昨年4月発足しました。ぜひ横浜に事業所のある顧客先には規則を整備し保険を紹介していただきたいと考えます。

 「ハマの・・・」は「ひようごのけんみん自転車保険」と同じスキームの保険制度です。金額もプランA1,500円/年(4月以降募集のものは50Up:傷害補償の保険料率の変更の由)。安全協会に確認すると、加入は全国どこの住民でもよいとのことでした。しかし、私は川崎市の在住ですが、一県民の川崎市民者としても入り難いものです。保険会社の話では、実際の加入者は横浜市に何らかの関係がある人だけのようです。  


 
団体保険は一定の規模がなければ作れないとのことです。団体保険は団体が大きければ保険料は廉価になります。「ハマの・・」市民数と、「ひようごの・・」県民数は370万人と550万人。これが基準となっているかどうかは不明です。が、これが基準とすれば、県民数910万人の神奈川県全体で団体を形成した場合、少なくも「ひようごの・・」と同額か廉価なはずです。

 「ハマの・・・」を実際運営している保険会社に試算してもらったところ、個人保険でプランA相当のものは7,640円/年。パートの自転車通勤にも保険を、となれば躊躇しますよね。廉価なものを提供・紹介したいものです。社労士会あげて、県レベルの保険の創設に動けないでしょうか。

*このブログを読んで共感いただいた方が各都道府県で声を上げていただいた結果として、自賠責並みの全国規模の団体任意保険があってもよいのではなどと夢見ています。

 


 最後に自転車保険との比較で、TSマークを紹介します。

 TSマークは、有効期間1年で廉価な保険料である点で自転車保険と同じです。また点検整備が伴い、業務上業務外を問わない点で優れていますが、一方で、高額賠償に対応できず、後遺障害への補償がない点、対物補償がない点、および示談交渉サービスがない点で自転車保険より劣っているといえます。

 以上、県条例化、県レベルの団体保険制度創設に向け、社労士会として取組むことを提案させていただきました。皆様の努力の結果、顧客企業様並びにその従業員各位に安心いただける通勤環境を整えられることを祈念し、発表を終えさせていただきます。

 

ご清聴ありがとうございました。 

以上