ギャンブル依存症はパチンコから

 

 COVID-19拡散に対する緊急事態宣言下での操業規制要請に対し、抵抗が強かったのはパチンコ業界で、また、開店していれば多くの客が集まったとのこと。作家で精神科医の帚木蓬生氏は『ギャンブル依存国家・日本』(光文社新書:2014.12)で、パチンコから精神疾患がはじまると、その恐ろしさを訴えている。以下、その内容を紹介する。

 

 

2014年現在、日本には500万人強のギャンブル依存者がいる。ネット依存が421万人、アルコール依存が109万人。世界中で頭抜けてギャンブルの有病者が多いのだが、官民こぞって危機感が見られないという。 

 

ギャンブル三昧の日々を送っていた人が、何かの拍子にギャンブルができなくなると、焦燥感や落ち着きのなさ、不眠、動悸や息苦しさ、冷汗、手の震えが生じ、幻覚に襲われる。耐性も、はまり込むにつれて、多少の金額を賭けるのでは興奮せず、次第に大金を賭けるようになり、手堅く本命に賭けるのではなく、穴狙いになっていく。

 

アルコールの離脱症状ではせいぜい1週間程度だが、ギャンブルでのそれははるかに長く、ひと月、ふた月にわたって続く。なかなか足が抜けない原因である。また、いずれも、治療の基本は、自助グループ参加であり、薬物療法や集団療法、認知行動療法などは補助的な役割を果たすに過ぎない。アルコールやたばこなど嗜癖物質は種々の規制がされているが、ひとりギャンブルだけが野放し状態である。

 

帚木氏の診療所を訪問した初診の100人の実態は次の通り。①ギャンブル開始年齢は平均20.2歳(主としてパチンコから)、②借金開始年齢は27.8歳、③精神科に相談するようになるのは平均39.0歳。(③-①)の20年近くにつぎ込んだ金額は最低50万円、最高11千万円、平均13百万円。

 

100人のうち、パチンコ・スロットがらみでない患者はわずか4名。女性8名はすべてパチンコかスロット(あるいはその両方)。ちなみに、14年当時、パチンコ店は全国に約12千店でコンビニのローソン並みである。また、パチンコ店のギャンブル機器数はおよそ460万台。全世界のギャンブル機器の総数が720万台で、その64%が日本に存在する。

 

ギャンブルによる犯罪・横領事件は枚挙に暇がない。某製紙会社会長の特別背任事件では総額107億円近くが子会社からわずか15か月の間に計26回も借出された。普通、借金はしても年に1-2回。1日、ひと月に何回もある借金はギャンブルを疑って間違いない。

 

2013年にアフリカのコンゴで起きた大使館半焼事件も書記官のカジノ通いが原因。ベネッセ顧客情報流出事件もそうだ。パチンコ店駐車場で熱中症により何人もの子供の命が失われた。横領事件も多い。

 

国家によるギャンブルの統制が崩れたのは敗戦後。天平の大昔から為政者は絶えずギャンブルを禁じてきた。それと真逆で、戦後、国家が胴元として操作するようになった。競馬は農水省、競艇は国交省、競輪・オートレースは経産省、スポーツ振興くじは文科省、宝くじは総務省と、各官庁、地方自治体はギャンブル振興に血眼で、予防に手を挙げる話はない。利権が絡み、また、各省庁等の重要な天下り先でもある。国民の健康を守り、労働者の環境を守るべき厚労省は、ギャンブル依存症は500万人と発表した後、知らん顔だ。警察も同様。メディアも重要な広告主として口を噤む。

 

精神医学界でも多くは、パチンコ・スロットはゲームであってギャンブルではないとの認識である。人権の尊重と保護のための知識と技を持ち、ギャンブル症者・家族の相談を受ける法律家も病気に無関心。・・・各国の取組みと雲泥の差だ。

 

紹介が長くなった。今やパチンコ・スロットなどのほか、ソーシャルメディア・ギャンブルゲームが規制されないまま、急速に拡大している。ギャンブルは幸せを壊し、犯罪を誘発する。各社におかれては、これらの危険性につき従業員へ広く啓蒙活動する努力をされ、併せて密なコミュニケーションを通じて、危険予知能力を高めていただきたく。